雑用係兼理事長の日記

NPO法人スポーツ健康支援センターな日々


それが桜の季節だったのかは実のところ憶えていない。


ただ、なぜかこの季節になるとあのときの光景がはっきりと思い出される。
もうずいぶん昔の出来事…僕が学生のときだから…


その日も明治通りは渋滞だった。
渋谷から池袋に向かっていたのだが、原宿駅の手前で流れは止まった。


別に先を急いでいたわけではないが、少し苛立っていたのは確かだった。


ふとバックミラーを見るとすぐ後ろのクルマに乗っている女性が目に入った。
ブルースブラザースのサングラスに真っ赤なルージュ…その唇は何かを口ずさんでいるように見えた。


あっ!セーリングだ!


読唇術を心得ているわけではない。何故わかったかと言えば、FMからロッドスチュアートのセーリングが流れていたからだった。


彼女はやはり僕と同じくラジオのFMを聞いていたのだろう。
ハンドルを人差し指でトントンと叩きながらリズムをとって…



苛立ちがフェードアウトしていくのがわかった。
永遠とも思える渋滞が心地よく感じられた…そんな一瞬の出来事だった。


クルマが動き出し、はっとしたのは…彼女の117クーペが土浦ナンバーだと気づいたときだった。


彼女は右折レーンに入って青山方面へ…
僕と並びかけたときこっちをチラッと見て微笑んだように思えた。
そう言えば僕のクルマも土浦ナンバーだった。


だけど微笑んだ理由は同郷のクルマに対してではなかった。
彼女と僕はその数ヶ月後、再び出会うことになる。


つづく…また、桜の季節に…