結局川越ウォーキングバスツアーの参加者は26名ずつとなりました。
これにより会員も50人近く増えたことになり…
今年度の目標である200人を超えたかもしれません。
ちょうど一年前に初めて行って今回二週連続で行って…
すでに行きつけの(サボるための隠れ家的)カフェまでできてしまいました。
日本の地方都市の中で唯一活性化に成功しているかもしれない川越ですが…その取り組みは30年前に始まったということで、やはり最初は古い街並みといってもそれを店舗しているのはわずかだったと聞きました。
ローマは一日してならず…ですね。
「あっ、あれは…」
すべてのことを話したつもりの柴崎だったが思い出したようにまた、話し始めた。
「私が事業に成功して有頂天になっていたころほんの一時、馬主になったことがあって…それまでも競馬は好きで、自分の馬がレースに勝つことを夢見ていたんだけど…」
柴崎は4杯目の焼酎をグラスに注ぎ一口ふくませてから続けた。
「あの写真の馬は一目惚れでした。そして、私の馬は生涯あの馬ただ一頭です。」
カウンターから出た柴崎は写真のところまで行って彼女に向かって手招きをした。彼女は何となく照れくさそうに写真のところまでゆっくりと歩み寄った。
「とてもきれいな鹿毛で目が真っ黒でくりんとしていて…ほら、ここ…」
柴崎はその写真の馬の右のわき腹を指差して
「ここだけ白い毛になっているでしょう。ちょうどひょうたんの形をしていて…私は「ひょこたん」とこの馬を勝手に呼んでいました。」
確かにその子馬はきれいな鹿毛で4本すべての脚は蹄から20cmほど白く、まるでソックスをはいているようで右のわき腹には型紙で白抜きしたようにくっきりとひょうたんが描かれているようだった。
彼女は、はっとして柴崎の顔をのぞき込んだ。
「そうなんです。この店の名前もこのひょうたんからとったようなもんです。もともとひょうたんから駒という言葉が好きで予想もつかないものが飛び出すみたいで…」
彼女の顔を見ながら柴崎はそう言うと、また写真の方を見て話し始めた。
「この馬は牝馬なんですが生まれつき右足が少し曲がっていて血統も良いとは言えなくて…殺処分されることになっていたのです。ご存じないと思いますがサラブレッドの維持費というのは相当なもので…だから、馬主になるのもそれ相応の審査があるのですよ。残酷な話ですがレースに出れないサラブレッドはライオンの餌になってしまったり…」
そう言ったときに彼女の顔はにわかに歪んで柴崎は話をそらした。
「私は走ろうが未出走で終わろうが、とにかくこの子馬が欲しくなって…考えてみるとあのころが人生の頂点だった気がします。しかし、さっきお話したようにこの後すぐに転落してしまったので…」
柴崎はため息をついてから未練があるように
「私がひょこたんと呼んでいたこの子馬もその後どうなったことか?たぶん、もうこの世にはいないとあきらめているのですが…」
この店に来たときからずっと柴崎の話には頷くだけだった彼女がはじめてそのとき話を遮るようにはっきりとした口調で
「マスター、きっとその子馬は今もどこかで生きていて…生かされた命のかぎり…そして、自分を救ってくれたマスターに感謝していると思いますよ。たぶんマスターに逢いたがっているのではありませんか?そう、きっとそうですよ。」
「ありがとう。何だかお客さんの言葉には妙に納得させられました。胸の奥でもやもやとしていたものが今日ですっきりしたような気がします。」
そういうと柴崎はカウンターの中へ戻っていった。
彼女はその場から離れずにじっと写真をみつめていたが意を決したように柴崎に語りかけた。
「マスターは今も競馬をやるのですか?」
「いいえ、もう…新聞記事はたまに見ることはあっても馬券を買うことはありません。」
「そうですか。それではこんなことをお話しても無駄かもしれませんが、今年最後のレースで一番人気のない馬を買ってみませんか?たぶん単勝で万馬券になると思います。」
「それは…インサイダー情報とかで…お客さんは競馬関係の方なんですか?」
「まあ、そんなところです。今夜のラーメンのお礼だと思ってください。」
そう言うと彼女はターコイズブルーに塗られた扉を開けた。
「お客さん!名前は…」
柴崎は帰ろうとする彼女に慌てて声をかけた。
彼女は少し間をおいてこう答えた。
「青井…青井ひとみです。」
柴崎は本当は馬の名前を聞きたかったのだが敢えて聞き返すことはせずに
「ひとみさん、ありがとう。今夜は楽しかった。馬券買ってみます。」
彼女が帰るときに開けた扉の向こうは彼女が来たときの雨から雪に変わっていた。
まだまだ続く…
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