あの寺山修司(天井桟敷)の競馬好きはあまりにも有名ですが、あるとき記者に「そんなに競馬が好きならトータルで勝ってるんでしょ?」と聞かれ、ムッとしてこう返したそうです。
「あなたの人生はトータルで幸せですか?」と…
人生において幸せなんてトータルで計れるものじゃないし…例えば心地よい風が吹いてその瞬間に幸せを感じられればきっとそれが幸せなんだと…
そして人生で賭けるものがあるとすれば自分自身しかないと思うのです。
だから…
賭けるだけの価値がある自分でありたいと努力するわけです。
白柵の下の刈られない芝(6)
電車に飛び乗った柴崎は改めて青井ひとみが来た晩のことを思い出していた。何だか懐かしい想いがしたことやひょこたんが生きていれば8歳になっていて人間の歳でいうと30代半ばであるということや彼女の瞳も真っ黒で青みがかっていたこと…そして、彼女が独り言のように呟いた「私が仕事をやめるときは死ぬということかしら。」ということ。あり得ないことだが全てにおいて辻褄が合う。
「間に合うだろうか?」
有馬記念の馬券購入締め切りには間に合わないどころか発走時間にも間に合わないだろう。しかし、そんなことはどうでもよかった。最終レースの馬券も半ば諦めていた。
柴崎は一目でいいからひょこたんに会いたいという想いとあの不思議な夜の出来事の真相を確かめたかった。
船橋法典寺の駅を降りると家路に向かう人の流れがすでに出来かかっていた。その流れに逆らって中山競馬場に入ると有馬記念優勝馬の表彰式が始まっていた。
「間に合った。」
柴崎は馬券売り場へと走り、持ってきた彼の全財産をブルーアイズの単勝に…
先のことはまったく考えていなかった。いずれにせよ年が越せないのは目に見えていたし帰りの電車賃のことすら頭にはなかった。
コンビニに行ったときのポケットに入っていた小銭だけを残して買った馬券は中山12レース単勝16番220,000円だった。
そして、柴崎はまた走り出してメインスタンドからゴール前へと飛び出した。
有馬記念は何が来たのかわからないし興味もなかったがハズレ馬券がスタンドを覆いつくしていてターフビジョンにはすでに最終レースの出走馬の紹介がひっそりと映し出されていた。
スタート地点の様子が映し出されると柴崎は必死で16番の馬を探したのだがなかなか写らない。いてもたっても入られなくなりスタート地点まで移動しようとしたそのときターフビジョンに大きくゼッケン16が映し出された。
柴崎は声にならない声で叫び、そして泣いた。
4本の足に真っ白なソックスをはいた鹿毛の馬は間違いなくひょこたんであると確信した。
そして、その年の最後のレースのゲートインが始まった。
配当を計算しつつ…つづく…
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