雑用係兼理事長の日記

NPO法人スポーツ健康支援センターな日々


年末に書いている短編ですが…

有馬記念が28日にあって書けませんでした。

と言うことで…(だから、どゆこと?)

年始でまだまだ仕事が動き出さないうちに…

こそっとアップしちゃいます。

さっきまでタイトルでを迷っていたのですが…

「糸電話の通話圏内」としました。

実際に糸電話がどれくらいの距離まで通話できるのか知る由もありません。

何となく、周りに人がたくさんいるけど…

二人だけの会話ができる近い距離のイメージなのです。


第1章 常磐線

 人との出会いとは不思議なものだ。
 その人と会うために用意された膨大な条件を積み重ねて、ほとんど奇跡に近いような確率で出会っているはずなのに、あまりにも日常茶飯事なのでそんなことは忘れてしまっているし、ネットの中であれば尚更かもしれない。


 ネットの中であれば、今はSNSによってその範囲は驚異的に広がったと言える。
 実際の知人をネットの中で見つけるのも容易であるが、たまに偶然見つけたときは何となくなく楽しくなったりするものであるが、逆のパターンはどうか?つまり、ネットの中でしか知らない人に偶然出会うと言うことである。
 もちろんネットの中で知り合って連絡を取って会うことはあるだろうが、そうでもしない限りもともと顔も名前もわからない人なのだから例え街ですれ違っていたとしてもわからないのである。
 なので、このパターンはあり得ないはずなのだが、冒頭でも言ったようにそもそも出会いとは奇跡に近いわけだから、そんな奇跡が起こってもおかしくないのである。


 次の誕生日が来ると三十路になる冬のある日曜日のこと、丘野太陽は、その日、自宅の土浦市から市ヶ谷に環境問題の講演を聴きに行っていた。
 太陽は、つくば市の製薬会社で働く傍ら霞ヶ浦をきれいにすることを目的とした環境保全系のNPO法人に所属していて休日はボランティア活動といった毎日を送っていた。

 彼もまた、SNSに登録していたが、ハマっているというわけではなく、いわゆる「ともだち」は10人程度でリアルと仮想、そして男女比も半々といったところだ。スマホでゲームをするわけでもなく、学生のころにアカウントを取得してそのまま放置同然にしている感じであったのだが、この半年はたまにログインしてメッセのやり取りをするようになった。

 太陽のHNは自分の名前をそのまま使い、写真は人型のままでその他の情報もまったく公開していないが、プロフで環境保全系のNPO法人で活動していることは公開していた。
 かと言って活動を日記で書くこともないので、そのことに食いつくともだちもいなかったが、ただ一人、どこからどう辿り着いたかは定かでないが、HN「月」という女性がコメントをくれたのだった。


 彼女のページを見るとやはり環境問題、特に地球温暖化に取り組む活動をしているようであり、年齢は非公開であったが、サブカルチャーの守備範囲が太陽と近いものが多く、たぶん同世代だと勝手に思い込んでいた。
 HNが月と太陽ということもあるが、特に太陽が共感したのは、彼女の日記の中で一年前に彼氏と別れてしまったということであり、当時、太陽もまた一年前に彼女と別れていて同じ境遇にあったのだ。

 ただ、お互いにそのことを知ってしまったので執拗にメッセを送ると何か魂胆があって、しかも相手の彼氏彼女と別れたばかりという境遇に漬け込むような気がして、そのたぐいの話題はお互い、少なくとも太陽は意図的に避けていた。


 不思議なもので好きな食べ物や音楽、それと趣味や今日どんなことをしたのかまで知ることができるのにおおよそどんな書類にも必要であるはずの氏名・年齢・住所・連絡先はお互い知らないのである。
 ただし、太陽自身はこういうのも良いかもしれないと思っていた。


 講演会が終わって、帰りの常磐線の中は平日ならきっと混んでいる時間帯なのだろうが、日曜日であったためか立っている人はおろか座って乗車している人もまばらであった。

 太陽が乗った電車は土浦が終点だったので寝て行こうと思ったのだが、不覚にも講演会でうとうとして半分寝てしまったのでどうにも眠れない。
 講演会の資料をパラパラとめくった後で、向かいの席に座っている女性の肩越しから見える景色をぼんやりと眺めていたが、夜の景色はただただ暗闇が続き退屈で、何となく月さんにメッセでもして時間をつぶそうと思ったのであった。


明日に続く…


● 報告書の作成